スクレイピングの法的問題Q&A:2025年版

約 7 分
ウェブスクレイピング
法的問題
著作権
利用規約

ウェブスクレイピングの法的問題を専門的に解説。著作権法、利用規約、個人情報保護法などの観点から、適法なスクレイピング実践方法をQ&A形式で詳しく紹介します。

ウェブスクレイピングは違法なのか?

結論:適切に実施すれば基本的に合法です。

2025 年現在、日本においてウェブスクレイピング自体を直接禁止する法律は存在しません。ただし、スクレイピングの方法や取得したデータの利用方法によっては、複数の法律に抵触する可能性があります。

重要なのは「何を」「どのように」「どのような目的で」スクレイピングするかです。

関連する主要な法律

1. 著作権法

  • 保護対象: 創作性のあるコンテンツ(記事、画像、動画等)
  • 適用範囲: 複製、改変、配布、公衆送信

2. 不正アクセス禁止法

  • 保護対象: アクセス制御されたシステム
  • 適用範囲: 認証突破、システム負荷攻撃

3. 個人情報保護法

  • 保護対象: 個人を特定できる情報
  • 適用範囲: 収集、利用、第三者提供

4. 利用規約・契約法

  • 保護対象: サイト運営者の定める利用条件
  • 適用範囲: 契約違反による損害賠償請求

よくある質問と回答

Q1. 公開されている Web サイトのデータをスクレイピングするのは違法ですか?

A. 基本的に違法ではありませんが、条件があります。

合法となる条件

  • パスワード等で保護されていない公開情報
  • 過度な負荷をかけない適切なアクセス頻度
  • サイトの利用規約に明示的な禁止がない
  • 個人情報を含まない、または適切に匿名化

具体例

✅ 適法な例
- 価格比較サイトによる商品価格情報の収集
- 学術研究目的でのニュース記事分析
- 競合分析のための公開情報収集

❌ 違法リスクのある例
- 著作権保護されたコンテンツの大量複製
- 個人情報の無断収集
- アクセス頻度制限を無視した大量取得

Q2. 利用規約で「スクレイピング禁止」と書かれている場合はどうなりますか?

A. 契約違反となり、損害賠償請求の可能性があります。

法的な仕組み

  1. 契約成立: サイト利用時に利用規約に同意
  2. 契約違反: 禁止行為を実行
  3. 法的責任: 損害賠償義務の発生

判断基準

  • 利用規約の記載が明確で具体的
  • 禁止条項が合理的で濫用的でない
  • 実際に損害が発生している

対策

# 利用規約チェックの自動化例
def check_terms_of_service(url):
    prohibited_terms = [
        "スクレイピング禁止",
        "自動アクセス禁止",
        "robots.txt",
        "crawling prohibited"
    ]

    # robots.txtの確認
    robots_url = f"{url}/robots.txt"
    response = requests.get(robots_url)

    if "Disallow: /" in response.text:
        return "スクレイピング制限あり"

    return "制限なし"

Q3. 著作権のあるコンテンツをスクレイピングするのは違法ですか?

A. 利用目的と範囲によります。

著作権法の例外規定(第 30 条の 4)

著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用

適法となる場合

  • 情報解析目的: AI 学習、統計分析、検索エンジン
  • 引用の範囲: 批評、研究、報道目的での部分利用
  • 私的使用: 個人の調査・研究(非営利)

違法となる場合

  • 営利目的での複製: 記事の丸ごとコピー&再販
  • 権利者の利益を害する利用: 代替サービスの提供
  • 創作的表現の享受: 小説、音楽、映画等のコンテンツ消費

Q4. 個人情報を含むデータのスクレイピングで注意すべき点は?

A. 個人情報保護法の厳格な遵守が必要です。

個人情報の定義(2025 年改正版):

  • 氏名、住所、電話番号、メールアドレス
  • 顔写真、指紋等の生体情報
  • IP アドレス、Cookie(特定個人と結びつく場合)
  • SNS アカウント名(実名と結びつく場合)

遵守すべき原則

  1. 利用目的の明示 - 何のために収集するか
  2. 必要最小限の収集 - 目的に必要な範囲のみ
  3. 適切な取得方法 - 偽り・欺きによる取得禁止
  4. 安全管理措置 - 情報漏洩防止

実装例

# 個人情報マスキング処理
import re

def mask_personal_info(text):
    # メールアドレスのマスキング
    text = re.sub(r'\b[A-Za-z0-9._%+-]+@[A-Za-z0-9.-]+\.[A-Z|a-z]{2,}\b',
                  '[MASKED_EMAIL]', text)

    # 電話番号のマスキング
    text = re.sub(r'\d{2,4}-\d{2,4}-\d{4}', '[MASKED_PHONE]', text)

    return text

Q5. スクレイピングで API の代替利用をするのは問題ありますか?

A. 多くの場合、利用規約違反となります。

問題となる理由

  1. 収益機会の侵害: API 利用料収入の逸失
  2. システム負荷: 想定外のアクセスパターン
  3. 契約関係の軽視: 正規利用プロセスの無視

判例・事例

  • LinkedIn vs HiQ Labs: データの公開性と利用目的が争点
  • Facebook vs Power Ventures: 利用規約違反での損害賠償認定

適法性の判断要素

✅ 適法寄りの要素
- データが完全に公開されている
- 競合サービスではない利用
- 適度なアクセス頻度
- 変換・加工による付加価値創出

❌ 違法リスクの要素
- ログイン後情報への不正アクセス
- APIと同等サービスの提供
- 過度なサーバー負荷
- 商業的競合関係

Q6. robots.txt を無視したスクレイピングは違法ですか?

A. 直ちに違法ではありませんが、マナー違反であり、他の法的問題に発展するリスクがあります。

robots.txt の法的地位

  • 法的拘束力: なし(単なるガイドライン)
  • 業界慣行: 尊重することが推奨
  • 証拠価値: 悪意の立証に利用される可能性

無視した場合のリスク

  1. 利用規約違反: robots.txt を利用条件に組み込むサイト
  2. 不正アクセス認定: 意図的な制限回避として解釈
  3. 損害賠償請求: サーバー負荷による実害
  4. 信用失墜: 業界での評判悪化

推奨アプローチ

# robots.txtの確認と遵守
import robotparser

def check_robots_txt(url, user_agent="*"):
    robots_url = f"{url}/robots.txt"
    rp = robotparser.RobotFileParser()
    rp.set_url(robots_url)
    rp.read()

    return rp.can_fetch(user_agent, url)

# 使用例
if check_robots_txt("https://example.com/data", "MyBot"):
    print("スクレイピング可能")
else:
    print("スクレイピング非推奨")

Q7. 海外サイトをスクレイピングする場合の法的注意点は?

A. 複数の法域の法律が適用される可能性があり、より慎重な検討が必要です。

適用法の決定要因

  1. サーバー所在地: 物理的なデータ保存場所
  2. 事業者所在地: サイト運営会社の所在地
  3. 利用者所在地: スクレイピング実行者の所在地
  4. 契約準拠法: 利用規約で指定された法律

主要地域の特徴

米国(CFAA - Computer Fraud and Abuse Act)

  • 「授権なきアクセス」の解釈が厳格
  • 利用規約違反=不正アクセスとみなす判例
  • 刑事罰の可能性

EU(GDPR)

  • 個人データ保護が極めて厳格
  • EU 域外への個人データ移転制限
  • 高額制裁金(売上の 4%または 2,000 万ユーロ)

中国(サイバーセキュリティ法)

  • データの国外持ち出し制限
  • 個人情報・重要データの厳格管理
  • 事前許可制度

Q8. スクレイピングデータの商用利用で注意すべき点は?

A. より厳格な法的審査が必要であり、事前の法的検討を強く推奨します。

商用利用での追加リスク

  1. 著作権侵害: 商用利用による例外規定の適用除外
  2. 不正競争: 営業妨害、顧客誘引行為
  3. 契約違反: 利用規約の商用利用禁止条項
  4. 損害額拡大: 営利目的による賠償額増加

適法な商用利用の条件

必要条件:
✓ データに十分な加工・変換を施す
✓ 原データの代替サービスではない
✓ 権利者の正当な利益を害さない
✓ 適切なクレジット表示
✓ ライセンス条件の遵守

追加推奨事項:
✓ 法務部門による事前審査
✓ 保険加入(サイバー保険等)
✓ 監査可能な運用体制
✓ データ削除要求への対応準備

スクレイピング実施前のチェックリスト

法的リスク評価

Step 1: 基本情報の確認

  • 対象サイトの所在国・準拠法
  • 利用規約の内容(特にスクレイピング関連条項)
  • robots.txt の内容
  • API の有無と利用条件

Step 2: データ内容の評価

  • 著作権保護の対象となるコンテンツの有無
  • 個人情報の含有状況
  • データベースの著作権該当性
  • 営業秘密・機密情報の可能性

Step 3: 利用方法の検討

  • 利用目的の明確化(営利/非営利)
  • データ加工・変換の程度
  • 第三者提供の有無
  • 保存期間・削除方針

技術的対策

アクセス頻度の調整

import time
import random

class RespectfulScraper:
    def __init__(self, delay_range=(1, 3)):
        self.delay_range = delay_range

    def respectful_request(self, url):
        # リクエスト間隔の調整
        delay = random.uniform(*self.delay_range)
        time.sleep(delay)

        # User-Agentの適切な設定
        headers = {
            'User-Agent': 'ResearchBot/1.0 (contact@example.com)',
            'From': 'researcher@university.edu'
        }

        return requests.get(url, headers=headers)

法的問題発生時の対応

1. 警告・要求受領時

  1. 即座に活動停止: スクレイピング活動の一時中断
  2. 法的助言取得: 専門弁護士への相談
  3. 証拠保全: ログ、設定、通信記録の保存
  4. 誠実な対応: 相手方との建設的な対話

2. 裁判・法的手続き

  1. 専門法律事務所への委任
  2. 技術的証拠の整理
  3. 和解交渉の検討
  4. 再発防止策の策定

まとめ:適法なスクレイピングのための指針

基本原則

  1. 透明性: 目的と方法の明確化
  2. 適度性: 必要最小限のデータ取得
  3. 尊重: サイト運営者の権利尊重
  4. 責任: 法的・技術的責任の自覚

推奨アプローチ

事前準備

  • 法的リスク評価の実施
  • 専門家への相談
  • 技術的配慮の実装
  • 継続的な法改正モニタリング

実施中

  • 適切なアクセス頻度の維持
  • ログの詳細記録
  • 異常事態への迅速対応
  • 相手方からの要求への誠実対応

事後管理

  • データの適切な管理・削除
  • 定期的な法的レビュー
  • ベストプラクティスの共有
  • 業界標準への貢献

ウェブスクレイピングは適切に実施すれば強力なビジネスツールとなりますが、法的リスクを十分に理解し、責任ある利用を心がけることが重要です。不明な点があれば、必ず専門家に相談することをお勧めします。


本記事は 2025 年 1 月時点の法令に基づいており、法的助言を目的としたものではありません。具体的な案件については、必ず専門の弁護士にご相談ください。

この記事が役に立ちましたら、ぜひシェアしてください。

関連記事

関連記事の実装を準備中です。